“バナナには種が無いってのは皆さんご存知の通りですが、こいつはある意味ソメイヨシノみたいなもんで、古代の野生バナナから突然変異によってできた株を挿し木によって増やしてます。食用バナナができたのは1万年ぐらい昔だろうと見られてて、それ以来ずっと挿し木で増えてきたわけですな。一応何種類かの株のバリエーションはありますけど、一つの株の中ではDNAは全部一緒。つまり遺伝子の多様性が無く、病気に弱いわけです。
実際バナナは1950年代に一度絶滅しかけています。当時は Gros Michel という株が栽培されていて、今のバナナよりも大きくて美味しかったんだそうな。ところがパナマ病という真菌感染の病気が大流行して、世界中の Gros Michel が壊滅。大手バナナ会社は世界中でパナマ病に耐えられるバナナの株を探し、ベトナムに生えていた Cavendish という株ならパナマ病に耐えられることがわかって、それを挿し木で増やすことで何とか乗り切ったんだそうな。一応黒シガトカ病ってのもあるんですが、年に40回ぐらい農薬(抗真菌剤)を撒けばなんとかなる。
ところがそれもつかの間、1993年に新種のパナマ病が出現します。Cavendish にも感染し、しかも黒シガトカ病と違って農薬で食い止めることができない。最初は東南アジアで流行り出して、その後アフリカにも拡大。昨年はオーストラリアに飛び火。ノーザンテリトリー州のバナナ農園が壊滅してしまったそうです。
今のところアメリカ大陸ではこの新種パナマ病まだ確認されてませんが、土壌に含まれる真菌であるため、例えば靴の裏についた土と共に持ち込まれるのは時間の問題と見られています。2003年にはフランスの科学者達が、バナナは10年以内に絶滅する可能性がある、との警告を出したりもしてますが、事態はもっと酷くなってる感じ。
普通だったら何とか品種改良で乗り切るところですが、なんせバナナには種ができないので普通の方法が使えない。残された唯一の可能性は遺伝子操作だろうと The Scientist 誌は言っています。ただし消費者の反発も強いだろうと。
冷静に考えるとバナナは遺伝子操作向きなんだそうです。なんせ種が出来ないわけだから、勝手に変な子孫ができる恐れも無い。挿し木という人間の手で制御された方法でしか繁殖できませんし。
んで、現在のところ、新種パナマ病に強い遺伝子を導入した遺伝子操作バナナが、アフリカのウガンダで厳重な監視のもと実験的に栽培されてるそうです。ウガンダではすでに新種パナマ病のせいでバナナが壊滅し、昔からバナナに食生活を大きく依存してた現地の人たちが酷いことになってたんだそうな。なので、それを救済するという意味合いもある実験らしい。
どうなんでしょうね。2015年ぐらいに Cavendish 株のバナナが絶滅し、バナナと言えば遺伝子操作した株しか無くなってしまったとしたら、我々はそれを食べるんでしょうか。”