PTSDは予防できるのか? Can PTSD Be Prevented? 心的外傷を体験した後PTSD症状が比較的早く現れた患者に対しては長時間曝露・認知療法が非常に有効と思われる。 心的外傷を受けた人を対象に薬物療法やデブリーフィングによる心的外傷後ストレス障害(PTSD)の予防効果を検討した従来の試験は残念な結果に終わっているが、おそらく介入の時期が適切ではなかったか、PTSDを発症しにくい(たとえば急性ストレス障害がみられない)被験者であったことが原因と考えられる。Shalevらがイスラエルで行

PTSDは予防できるのか?
Can PTSD Be Prevented?
心的外傷を体験した後PTSD症状が比較的早く現れた患者に対しては長時間曝露・認知療法が非常に有効と思われる。
心的外傷を受けた人を対象に薬物療法やデブリーフィングによる心的外傷後ストレス障害(PTSD)の予防効果を検討した従来の試験は残念な結果に終わっているが、おそらく介入の時期が適切ではなかったか、PTSDを発症しにくい(たとえば急性ストレス障害がみられない)被験者であったことが原因と考えられる。Shalevらがイスラエルで行った本研究では、自動車事故、テロ攻撃あるいはその他の心的外傷を体験した成人296例を4つの治療群に無作為に割り付け、12週間治療した。被験者はPTSD症状を示していたが、症状の持続期間が(PTSDの)正式な診断基準に満たなかった(被験者の82%はPTSD症状の基準すべてに合致した)。
被験者には以下の4種類の治療選択肢を提示し、本人が望まない治療を最大2つまで除外可能とし、残りの治療を無作為に割り付けた:長時間曝露療法(PE:想像曝露・実生活内曝露と呼吸制御訓練[一定のペースに合わせた腹式呼吸法])、心的外傷に焦点をあてた認知療法(CT)、二重盲検下での薬物療法(エシタロプラム[20 mg/日] 対 プラセボ錠)、待機リスト(WL)。(心的外傷体験後)5ヵ月目、PE群およびCT群の患者がPTSDを有する割合(有病率:18~21%)は、エシタロプラム群、プラセボ群、WL群(有病率:56~62%)に比べ有意に低かった。
PTSD症状を示すWL群の患者は5ヵ月後に遅れてPEを受けた。9ヵ月目、エシタロプラム群とプラセボ群ではPTSDの有病率が依然として有意に高かったが(42~47%)、WL群ではPE群およびCT群と同等なレベルにまで低下した(21~23%)。試験開始時に一部のPTSD症状のみを認めた患者では、治療の割付け結果にかかわらず、ほぼ同様に良好な経過をたどった。
コメント
本論文について、研究者らが検討しているのはすでに発症過程にあるPTSDの治療であり、高リスク集団におけるPTSDの予防ではない、と論じることもできよう。そうだとしても、中等量の抗うつ薬による治療では、完全に症状が確立したPTSDの発症リスクに変化はみられず、9ヵ月目の予後は長時間曝露・認知療法に比べ不良のようである。PEおよびCTは短期のPTSD症状に対して非常に有効と思われるが、PTSD症状がほとんど認められない人にこれらの介入は必要ないと考えられる。多数の人を巻き込んだ大惨事が起きたらすぐに、PTSD症状を有する人にPEやCTを行うべきである。医療資源が限られている場合、治療開始が遅れても効果は得られるが回復し始めるのも遅くなることを理解したうえで、(これらの治療をまだ希望していない人など)対象者の一部には治療を遅らせることも可能である。
—Steven Dubovsky, MD
掲載:Journal Watch Psychiatry November 21, 2011