身体的児童虐待の精神的後遺症
Mental Health Sequelae of Childhood Physical Abuse
今回の全国的な疫学研究は、小児期の身体的虐待を受けるほど成人期における広範囲の精神疾患のリスクが上昇していることを示す。
児童虐待がその後の精神疾患発症リスクと関連していることを明確に示した大規模研究はこれまでわずかしかない。今回、Sugayaらは米国の大規模な横断的調査であるNational Epidemiologic Survey on Alcohol and Related Conditionsから入手した成人43,093例に関するデータを用いて、児童虐待と成人期における精神疾患罹患の関連について検討した。
回答者の8%が、18歳未満に少なくともかなりの頻度で身体的虐待を受けたことがあると報告した。これらの虐待体験者のうち、84%は生涯を通じて少なくとも1つの精神疾患の既往を有していた。虐待の頻度が高いほど、その後の精神疾患発症リスクが増加していた。身体的児童虐待を受けていない人に比べ、傷跡や外傷を負わせるほどの激しい身体的暴行を受けた人では、自殺企図(頻繁の激しい暴行:オッズ比[OR] 9.42)および不安・気分・物質使用障害のリスクが高かった。これらの身体的児童虐待を体験している人の79~90%は、他の小児期逆境(性的虐待、ネグレクト、親の精神病理)の体験も報告していた。種々の社会人口統計学的要因、合併している精神疾患、そして他の小児期逆境体験で補正しても、身体的児童虐待を体験している人は、注意欠如・多動障害(ADHD)(補正OR 2.28)、心的外傷後ストレス障害(PTSD)(補正OR 1.55)、双極性障害(補正OR 1.48)、精神病(補正OR 1.27;かろうじて有意)のリスクが高かった。
コメント
これらの結果は、身体的児童虐待は広範囲の精神疾患と独立して関連していることを示唆しているが、横断的研究というデザインにより結果の解釈には限界がある。たとえば、ADHDまたは双極性障害を有する小児や精神病を呈する小児は身体的児童虐待を受けるリスクが高いかもしれない。また、この種の調査における双極性障害の診断は(本研究では評価されていない)パーソナリティー障害クラスターBを反映していることがある。本研究の知見は、日常診療において双極性障害および他の精神病などを有する精神疾患患者を評価する際は、身体的児童虐待およびその他の逆境体験について聴取することの必要性を支持している。
—Joel Yager, MD
掲載:Journal Watch Psychiatry August 13, 2012