東西大国におけるアルコールと殺人
Alcohol and Murder, East and West
国による違いはあるが、アルコール使用は明らかに殺人行為に関連する要因であり、とくに多量飲酒者において関連が顕著である。
アルコールは殺人行為にしばしば関連する要因の1つであるが、文化的要因は両者の関連に影響するのか?本論文の著者LandbergとNorströmは、暴力関連死亡率が高いロシアと米国、2ヵ国における15~64歳の住民を対象に、年齢で標準化した1人あたりのアルコール摂取量と殺人発生率の関連を解析した。ロシア(データ収集期間1959~1998年)ではウォッカの散発的な多量飲酒が多くみられ、米国(1950~2004年)では危険な飲酒の頻度は低く、もっともよく飲まれているアルコール飲料はビールという特徴がある。
ロシアでは米国に比べアルコール摂取量と殺人発生率が常に高かったが、当初、これらは両国間でほぼ同様な傾向で増加した。米国ではアルコール摂取量が1980年代に減少し始めたのに対し、殺人発生率は1980年代まで低下したが1990年代初頭に上昇し、その後低下した。ロシアでは1980年代初頭にアルコール摂取量が激減し(反飲酒キャンペーン期間中)、その後10年間は増加したが、1990年半ばに急速に減少した。ロシアにおける殺人発生率は1980年代のアルコール使用減少と連動するように急速に低下したが、1994年までに3倍に上昇し、その後低下し始めた。
全体で、ロシアで発生した殺人の73%はアルコールに起因すると推定されたが、米国では57%にとどまった。複雑な統計モデルを用いた解析において、アルコール使用の経時的変化によってロシアでは殺人発生率の経時的変化の88%、米国では54%を予測可能であった。
コメント
ロシアにおける殺人発生率にはおそらくソ連崩壊後に起きた社会・経済の激変が影響を及ぼしている、と著者らは指摘している。一方、米国においてアルコール使用と殺人発生率の関連が弱かった背景には、違法薬物売買絡みの殺人といった他の要因が関与している可能性を彼らは示唆している。今回用いられた手法では、両国、とくにロシアにおけるアルコール摂取量がおそらく過小に推定されていると思われる。しかしながら、アルコール使用は明らかに殺人行為に関連しており、多量飲酒者では両者の関連が顕著である。臨床医は多量飲酒者における殺人(および自殺)のリスクに注意する必要がある。
—Steven Dubovsky, MD
掲載:Journal Watch Psychiatry November 7, 2011