更年期女性のうつ病に対するエストロゲン(補充療法)の効果は?
Estrogen for Depression in Menopausal Women?
マウスを用いたこれらの研究は、更年期女性のうつ病に対してエストロゲン補充療法の有効性を支持する生理学的な根拠を提示している。
うつ病の更年期女性がエストロゲン補充療法の使用を予定している場合、特定の抗うつ薬を用いた介入の開始を遅らせ、ホルモン補充療法により抑うつ気分や認知的症状が改善するかどうか様子をみるべきであろうか。最近報告された2件の前臨床試験はこの疑問に関係するデータを提供している。
Suzukiらは(企業から若干の支援を受けて)背側縫線核セロトニン神経におけるトリプトファン水酸化酵素(TPH)発現に対するエストロゲンおよびエストロゲン受容体β(ERβ)作動薬の作用を検討した。研究者らは野生型の卵巣摘出(OVX)マウスにOVX後1、3、10週目にエストロゲン、ERβ、またはプラセボを含有する徐放性ペレットを埋め込み、その3日後に神経細胞を調べた。その結果、健常マウスに比べ、OVXマウスの背側縫線核ではTPH陽性で形態が正常の神経細胞が有意に少なく、TPH陽性で紡錘状の神経細胞が有意に多かった。エストロゲンまたはERβ作動薬のペレット埋め込みによりこれらの作用(形態学的変化)は抑制されたが、埋め込み時期がOVX後1週目または3週目に限られた(すなわち、10週目以降の埋め込みでは改善効果が認められなかった)。ERβノックアウトマウスでもOVXマウスと同様な効果が認められた。
2つ目のPhanらによる研究では、OVXマウスに溶媒(vehicle)もしくは17β-エストラジオールを皮下投与し(生理学的な性周期に合わせて3回投与)、投与後15~40分以内に社会的認知およびオブジェクト認知・配置の学習・記憶を調べる一連の実験パラダイムを用いて薬物の効果を評価した。このように薬物投与後すぐに学習・記憶効果を調べることで、研究者らは17β-エストラジオールの作用とゲノムレベルの長期的作用を識別可能とした。もう1つの実験系では、OVXマウスに同様な用量の17β-エストラジオールまたはプラセボを投与し、40分後の脳を病理組織学的に検討した。17β-エストラジオールの全用量(訳注:1.5μg/kg、2μg/kg、3μg/kg)で学習・記憶が有意に改善し、海馬CA1領域において樹状突起棘の密度が有意に上昇した。
コメント
これらの前臨床試験において認められたセロトニン作動系経路および認知処理経路に対するエストロゲンの好ましい効果はヒトにおける効果と類似しており、ホルモン補充療法を受ける予定の女性患者に対しては抗うつ薬療法を開始する前にエストロゲン補充療法を試すことが支持される。マウスにおいて10週が重要な時期であるという今回の結果は他の前臨床試験のデータとも一致し、エストロゲン補充療法は閉経後すぐに開始する必要があることを示唆している。
—Barbara Geller, MD
掲載:Journal Watch Psychiatry June 25, 2012