小児期の虐待は境界性パーソナリティー障害の形質に関連するのか?
Does Childhood Abuse Cause Borderline Personality Traits?
本研究は、両者の関連は共通する遺伝的影響に起因する可能性を示唆している。
児童虐待は境界性パーソナリティー障害(BPD)と強く関連しており、しばしばBPDの成因の1つとしてみなされる。本論文の著者Bornovalovaらは、縦断的な双生児研究においてこの関連を解析し、内在化、外在化障害が及ぼすかもしれない媒介・調節効果について検討した。
参加者は11歳時または17歳時に初回評価、24歳時に追跡評価を受けた性別が同じ双生児1,382組であった(一卵性[MZ]双生児896組、二卵性[DZ]双生児486組;このうち334組は虐待体験に関して不一致)。児童虐待の種別(情緒的、身体的、性的)はいずれも24歳時でのBPD形質の重症化と関連していた。内在化障害、外在化障害、および両障害の合併はいずれもBPD形質と有意な関連を示した。児童虐待不一致のMZ双生児間ではBPD形質に差はみられなかったが、情緒的、身体的、いずれかの児童虐待体験を有するDZ双生児ではこれらの虐待体験がないDZ双生児に比べBPDの形質レベルが高く、BPD形質と児童虐待の関連に遺伝的要因が介在することを示唆している。生物測定モデリングによっても、BPD形質と児童虐待(および種類別児童虐待)の関連に対して中等度~高度の遺伝的影響が存在することが示された。小児期の身体的虐待のみに関して、児童虐待とBPD形質のあいだの遺伝的関連の大部分は内在化障害および外在化障害によって説明された。
コメント
本研究の弱みとして、児童虐待の調査が後方視的な自己報告に基づいていること、境界性の評価が面接ではなく質問票により行われたことがあげられる。このような弱点はあるものの、今回の刺激的な研究結果は、児童虐待体験がBPDあるいはBPD形質を生じさせる一因とする広く受け入れられている考え方に疑問を投げるとともに、BPDおよび児童虐待の両方に影響を与える共通の遺伝的要因の存在を示唆する。小児期の身体的虐待との関連には主に内在化障害と外在化障害が介在している。本研究は、共通の遺伝的要因が患者の特性(衝動性、攻撃性など)、児童時代における本人が他者に引き起こす反応、そして成長過程における未解明のBPDの前駆状態を通じて、児童虐待とBPD形質の双方に影響を及ぼす可能性を示唆している。いずれは、児童虐待およびBPD双方の早期予防に有用な標的になりうる他の病因を特定できるかもしれない。
—Deborah Cowley, MD
掲載:Journal Watch Psychiatry July 23, 2012