小児期の心的外傷は精神病のリスクに関与するのか? Does Childhood Trauma Contribute to Risk for Psychosis? 虐待の程度は精神病患者ならびに同胞や健常対照者における統合失調型(schizotypy)の陽性症状と相関する。 臨床医のあいだでは、精神病は主として生物学的な原因によるとの見方が一般的であるが、小児期の心的外傷と精神病は関連していることがいくつかの疫学研究において示唆されている。本論文の著者Heinsらは、感情障害を伴わない精神病を有する患者

小児期の心的外傷は精神病のリスクに関与するのか?
Does Childhood Trauma Contribute to Risk for Psychosis?
虐待の程度は精神病患者ならびに同胞や健常対照者における統合失調型(schizotypy)の陽性症状と相関する。
臨床医のあいだでは、精神病は主として生物学的な原因によるとの見方が一般的であるが、小児期の心的外傷と精神病は関連していることがいくつかの疫学研究において示唆されている。本論文の著者Heinsらは、感情障害を伴わない精神病を有する患者272例における陽性・陰性症状、および統合失調型の様相を有する同胞258例と健常対照者227例における陽性・陰性症状と、小児期心的外傷(精神的・身体的虐待、虐待全般、情緒的・身体的ネグレクト)との関連を検討した。対象患者の86%の同胞が参加した。
精神病患者群では、重度の小児期心的外傷体験を有する割合が高く、健常対照群に対するオッズ比は5.61、同胞群に対するオッズ比は2.88であった。患者群における精神病の陽性症状のスコア、および同胞群や対照群における統合失調型の陽性症状のスコアは、小児期心的外傷の曝露量に依存した相関関係を示した。虐待と陰性症状には関連を認めなかった。患者群において、ネグレクトは陽性症状、陰性症状のいずれとも関連していなかった。
コメント
本研究は多種類の比較(患者 対 同胞、患者 対 対照、同胞 対 対照)および個別の解析(患者、同胞、対照の各群内における心的外傷と精神病の関係)を行うことにより、先行研究が影響を受けてきた研究デザイン上の多くの限界を解決している。同胞群における自己報告に基づく心的外傷の程度は患者群と対照群の中間であり、患者群の心的外傷の程度に関する報告が妥当であることを示唆している。しかしながら、後方視的に得た虐待やネグレクトに関する報告は歪曲によりバイアスを受けていた可能性がある。さらに、患者群に高頻度に認めた小児期虐待の原因の一部として、精神病発症前の子どもの逸脱行動に対する親の反応が関与していたことも考えられる。感情障害を伴わない精神病患者、とくに陽性症状が顕著な患者を治療している臨床医は、小児期の心的外傷経験が精神病症状に関与している可能性に留意し、これらの問題を加味した心理療法を行っていく必要がある。
—Joel Yager, MD
掲載:Journal Watch Psychiatry October 31, 2011