不安の治療効果を高めるには脳を若くさせる ―動物実験による知見 Make the Brain Younger to Treat Anxiety: An Animal Study 選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)は脳を未熟な状態に変化させ、行動療法の効果が得られやすくなる可能性がある。 不安障害の治療において抗うつ薬療法と心理療法の併用はそれぞれ単独で行うよりも効果が高いようであるが、その神経生物学的な機序は不明である。本論文の著者Karpovaらは不安(恐怖条件付け[FC]に対する反応)の

不安の治療効果を高めるには脳を若くさせる ―動物実験による知見
Make the Brain Younger to Treat Anxiety: An Animal Study
選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)は脳を未熟な状態に変化させ、行動療法の効果が得られやすくなる可能性がある。
不安障害の治療において抗うつ薬療法と心理療法の併用はそれぞれ単独で行うよりも効果が高いようであるが、その神経生物学的な機序は不明である。本論文の著者Karpovaらは不安(恐怖条件付け[FC]に対する反応)のマウスモデルを用いて、FC前後のマウスにフルオキセチンを投与した場合と投与しない場合において恐怖記憶の消去訓練(ET)に対する反応を比較した。ET単独は恐怖反応を改善するが、この効果は持続せず、再発することが多い。
FCおよびET実施前にフルオキセチンが投与された場合、恐怖記憶がより早期に消去され、恐怖反応の再出現率が低かった。FC後にフルオキセチンを投与されたマウスでは(臨床に相当する設定)、非投与群のマウスに比べ、消去が早く、恐怖反応の再出現を示す徴候は認められなかった。フルオキセチンによって扁桃体基底外側部における特定の神経細胞が未熟な状態に変化したことから、FCネットワークには幼若期様の可塑性が存在する可能性が示唆された。これらの変化としては、シナプス可塑性の増大(興奮性シナプス後電位[EPSP]上昇を指標に評価)および脳由来神経栄養因子(BDNF)の発現亢進などが認められた。
コメント
本研究は抗うつ薬と心理療法の併用効果について説得力のある神経生物学的機序を提示しており、併用療法の妥当性を補強するものである(JW Psychiatry Jan 14 2008)。SSRIは神経細胞の可塑性に作用し、学習効果が持続しやすい幼若期の状態に変化させる。これらの結果により、われわれが患者に抗うつ薬を使用する根拠について説明する際、その目的がセロトニン濃度を上昇させるのではなく、脳が適応反応を再学習しやすくすることにある、と説明の仕方を変えることになるかもしれない。
本研究はうつ病患者の治療に関しても重要な示唆を与えていると思われる。さらに、脳損傷患者や脳卒中患者において、SSRIは身体機能の回復さえも改善する可能性がある(JW Psychiatry Feb 22 2010)。