スポーツ選手が一シーズン中に受けた頭部外傷の影響
Knocking Heads Together: The Effect of a Season of Hits
脳振盪にいたらない頭部衝撃を繰り返し受けても、大多数のスポーツ選手には重大な問題が生じないが、一部の選手は脆弱性が高いようである。
特定種目のスポーツ選手は、脳振盪とは異なるものの、ヘルメット同士が激しく衝突して意識変化を伴わない頭部衝撃を多数受けることがある。では、これらの頭部外傷は認知機能に対して脳振盪と同様な有害な影響を及ぼすのであろうか?本論文の著者McAllisterらは、選手同士が接触する(接触型)スポーツ(フットボール、アイスホッケー)の大学代表選手214例および非接触型スポーツ(ボート競技など)の選手45例(対照群)において認知機能を前方視的に評価した(なお、研究グループの一部は企業と利益相反関係にあった)。
接触型スポーツの選手は衝撃力を記録する特殊なヘルメットを着用した。参加者は競技シーズンの開始前と終了後すぐに(最後の頭部衝撃を受けてから平均26日後)スポーツ選手向け脳振盪評価用テスト(Immediate Post-Concussion Assessment and Cognitive Test:Im-PACT)を終了した。対象集団の一部(接触型スポーツ選手45例、対照選手55例)に対してはより包括的な認知機能検査が行われた。シーズン前の評価では、接触型スポーツ選手と対照選手における認知機能検査の成績は文字流暢性を除き同様であった。
接触型スポーツ選手はシーズン中に平均469回の頭部衝撃を受けていた(範囲 1~2,154回、最大直線加速度 17~324g、平均 132g)。シーズン後の評価において、接触型スポーツ選手では対照選手に比べ新規学習課題(California Verbal Learning Test)の成績が期待値よりも不良(すなわち、>1.5 SD)である割合が有意に高かったが、ImPACT複合指標では差がみられなかった。シーズン後のImPACTに基づく反応時間および遂行機能の不良は、シーズン最後の週およびシーズン全体の衝撃計量値の不良(高スコア)とそれぞれ関連していた。
コメント
脳振盪にはいたらないがかなり強い衝撃を頭部に受けても、数項目の指標で明確な有害影響が現れたスポーツ選手は1/4のみであった。しかしながら、より感度の高い方法を用いて頭部衝撃後すぐに評価を行えば、他の障害が検出されるかもしれない。
シーズン前の認知機能成績にみられるわずかな差が、何年も蓄積された衝撃の影響によるのか、それとも人口統計学的特性(背景因子)の群間差に起因するのかは、今回の報告からはわからない。シーズン前の認知機能成績が両群間で同様であったことから、認知機能の回復には問題がないと思われる。このような頭部衝撃を複数年にわたって受けると、慢性の外傷性脳症が起こりうるのかどうかは不明である。一部のスポーツ選手において脆弱性が高かった要因として、今回検討されなかった他の因子(APOE遺伝子型など)が関与している可能性が考えられる。大多数のスポーツ選手は回復力があるという今回の知見は喜ばしいものだが、問題はリスクの高い選手が誰かわからないことである。
—Jonathan Silver, MD
掲載:Journal Watch Psychiatry June 11, 2012