難治性双極性障害に対する治療選択
Treatment Choices for Resistant Bipolar Disorder
クロザピンを含めて、いくつかの選択肢が存在する。
今回紹介する3論文は、気分安定薬に対する反応が不十分な双極性障害(BD)患者に利用可能なさまざまな補助治療の戦略について論じている。
最初にKempらの論文は、急速交代型(rapid-cycling)双極性障害(RCBD)は他のタイプのBDに比べ治療抵抗性が強い可能性を示唆している。この試験は2段階で行われ、第1段階ではうつ状態のRCBD患者113例に対してリチウムとバルプロ酸の併用療法が開始された。その結果、患者の14%で症状の安定化が得られ、10%が有害作用により脱落し、17%はアドヒアランス不良であった。第2段階では、二重盲検下にて治療抵抗例49例がプラセボ群もしくはラモトリギン群に無作為に割り付けられた。両群間の治療反応率に差は認められなかった。
次にNielsenらは、デンマークのデータベースを用いてBDと診断された患者21,473例を特定し、治療抵抗性BDに対してクロザピンが有効であるかどうかを検討した。BD患者のうちクロザピンを処方されていたのは326例のみで、これらの患者は他のBD患者よりも重症であった(独居生活率 76.7% 対 43.8%;施設入所率 20.3% 対 2.5%;精神科入院回数 26.8 対 8.9;うつ病エピソード回数 2.8 対 2.3;躁病エピソード回数 3.5 対 2.1;混合状態回数 2.0 vs. 0.9)。急速交代に関するデータは提示されなかった。クロザピン開始前2年間に測定された指標について開始後2年間の追跡中に得られた測定結果との比較がなされた。その結果、クロザピンは入院回数、病床日数、併用された向精神薬、そして故意の自傷行為/過量摂取の減少と関連していた。
最後にPoonらの論文では、治療抵抗性の躁病またはうつ病に対する新しい薬物療法を含む治療選択肢ならびに長期管理について文献レビューによりエビデンスの検討が行われた。たとえば、ラモトリギンとクエチアピンの併用はうつ病に有効と思われるが、アリピプラゾールの追加は効果がないことが示された。これら以外には、ケタミン、プラミペキソール、甲状腺ホルモン補充療法、反復経頭蓋磁気刺激(TMS)などの治療が評価された。著者らは、試験の多くは対象集団が小さく不均一であったと指摘している。今回のレビューは試験の資金について報告していない。
コメント
これらの論文は、治療に難渋するBD患者に対して適切な治療選択肢を決定するさいに有用な知見を与えている。ラモトリギンは治療抵抗性の急速交代型BDには効果がないようである。クロザピンは、有害作用の問題があり使いづらい薬剤であるが、一部のBD患者には有望な選択肢の1つである。クロザピンがRCBDにも有用であるかどうかは不明である。いくつかの革新的な治療は有望であるが大規模な臨床試験による検証が必要であり、ネガティブな結果は発表されないままになる可能性があることを常に認識しておく必要がある。