若年期の逆境体験はうつ病における遺伝的保護効果を消失させる Early-Life Adversity Wipes Out Genetic Protective Effects in Depression うつ病の病態に関連している海馬の萎縮に対するBICC1遺伝子マイナーアレルの保護的な効果は、若年期の逆境体験者では消失しているようである。 特定の遺伝子多型および若年期の逆境(Early-Life Adversity:ELA)は大うつ病の危険因子であり、うつ病の重要な神経基盤に影響し、両者の相互作用は

若年期の逆境体験はうつ病における遺伝的保護効果を消失させる
Early-Life Adversity Wipes Out Genetic Protective Effects in Depression
うつ病の病態に関連している海馬の萎縮に対するBICC1遺伝子マイナーアレルの保護的な効果は、若年期の逆境体験者では消失しているようである。
特定の遺伝子多型および若年期の逆境(Early-Life Adversity:ELA)は大うつ病の危険因子であり、うつ病の重要な神経基盤に影響し、両者の相互作用はうつ病リスクを上昇させると思われる。うつ病に関する全ゲノム解析研究において保護的アレルの候補としてBICC1遺伝子のマイナーTアレルが特定されたことから、本論文の著者Berminghamらは大うつ病患者44例と健常対照者44例において、同遺伝子のTアレル、ELA、海馬体積、そして情動制御系の相互作用を検討した。
ELA体験のない患者群および対照群では、Tアレル保有者における右海馬体部の体積がCアレルホモ接合型保有者に比べ大きかった。ELA体験患者の場合、Tアレルを1つ以上保有する患者ではCアレルを2つ保有する患者に比べ、MRIにより計測した右海馬頭部の体積が小さかった。Tアレル保有患者群において、ELA非体験患者ではELA体験患者に比べ右海馬頭部の体積が大きく、有意傾向があった(P=0.05)。機能的MRIを用いた検討において、Tアレルを保有する患者および対照者では、Cアレルホモ接合型に比べ、種々の刺激に対する情動制御系の活性化が大きかった。
コメント
これらの結果は、うつ病の病態にかかわる主要領域の1つである海馬に対するある変異型の保護的効果がELA体験により鈍化あるいは消失しうることを示唆している。この説は、大うつ病患者ではBICC1遺伝子Tアレルの頻度が低いという最近示されたエビデンスとも整合する(ただし、最新の小規模な研究では同様な証拠が得られなかった)。初期の諸研究が特定の変異型によりELAに対する脆弱性がどの程度増大しうるのかを繰り返し強調してきたのに対し、今回の新しい研究は、特定遺伝子の保護的効果を消失させることにより、ELAがうつ病に対する脆弱性をどれくらい増大させる可能性があるかを示している。
—Peter Roy-Byrne, MD
掲載:Journal Watch Psychiatry September 24, 2012