父親の年齢上昇と精神病理が関連する可能性 Possible Link Between Advanced Paternal Age and Psychopathology 全ゲノム塩基配列解析による本研究の結果は、父親の年齢上昇に関連したまれなde novo変異が罹患リスクに関与していることを示唆している。 統合失調症および自閉症に対する脆弱性の要因として、父親の年齢が高いこと(Arch Gen Psychiatry 2006; 63:1026)、出現頻度が卵子よりも精子のほうが4倍以上高く父親の年齢と

父親の年齢上昇と精神病理が関連する可能性
Possible Link Between Advanced Paternal Age and Psychopathology
全ゲノム塩基配列解析による本研究の結果は、父親の年齢上昇に関連したまれなde novo変異が罹患リスクに関与していることを示唆している。
統合失調症および自閉症に対する脆弱性の要因として、父親の年齢が高いこと(Arch Gen Psychiatry 2006; 63:1026)、出現頻度が卵子よりも精子のほうが4倍以上高く父親の年齢と相関するde novo 変異(Nature 2012;485:246、Arch Gen Psychiatry 2001; 58:361)などが知られている。このテーマを新たに検討した本研究は、最近、一般メディアで高い注目を集めている。
先行研究が示した結果の再現性を検証する目的で、Kongらはアイスランド人の両親・子ども(発端者)78組(親の平均年齢 29歳)の全ゲノム塩基配列を解析した。44例の発端者は自閉症、21例は統合失調症に罹患していた。5家族については3世代の遺伝子型解析が行われ、 de novo 変異を生じた遺伝子が父親由来か母親由来かを特定することができた。また、4,933個のde novo 遺伝子変異候補が同定された。変異遺伝子の由来(父親由来または母親由来)が明らかになった5組では、母親由来よりも父親由来の遺伝子に発生した変異が約4倍も多く存在した(55 対 14)。父親の年齢が高いほどde novo 変異の数が増加し、その増加率は1歳あたり2個の新規変異に相当した。自閉症との関連が報告されている遺伝子(CUL3、EPHB2 など)において複数の変異が発生していた。
コメント
これらの遺伝子変異はまれではあるが、一般メディアに広く取り上げられる情報からは頻度が高く疾患の原因であるかのような印象を与えている可能性があることから、臨床医にとって重要であるといえる。臨床医は小児患者の両親および高リスク家系でこれから親になる人達に対して、これらの変異は非発症者にも起こりうるため遺伝子検査は役立たない可能性があることを説明する必要があると思われる。年齢の上昇に伴って変異が増加するのは、男性の生殖細胞は女性の生殖細胞と異なり生涯を通じて分裂を繰り返すからであり、このような変異の増加を回避するために精子の凍結保存を希望する男性が今後出てくるかもしれないということが指摘されている。しかし、de novo 変異による大きな先天異常の発生リスクが、生殖補助医療に起因するリスクよりも大きいかどうかは現時点では不明である(N Engl J Med 2002; 346:725)。