実地臨床におけるPTSDに対する認知行動療法(CBT):いまだ効果に乏しい
CBT for PTSD in the Real World: The Glass Is Still Mostly Empty
行動療法による新しいPTSD治療は物質乱用合併患者に対して非常に限定的な効果しか示さず、また、別のPTSD治療は、それほど重症ではない患者に対しては、予想どおり、有効である。
心的外傷後ストレス障害(PTSD)に対するエビデンスに基づく治療は、併存疾患がなく狭義のPTSD患者群において検証されたものが多く、有用性を示してはいるが効果は限定的である。また、症状が現れない機能領域(人間関係など)に対する治療効果が検討されていることはまれである。今回報告された2つの無作為化対照試験では、PTSDに物質依存症を合併する患者、PTSDによって親密な関係が悪化したと思われる患者の2種類の集団において、個々の患者に最適化した認知行動療法(CBT)の有効性が検討された。
Millsらは、重症物質依存症(早期発症例、注射薬物使用者80%)を合併する重症のPTSD患者(Clinician-Administered PTSD Scale[CAPS]スコア 90)103例において標準的物質依存症治療の単独(対照群)と長時間曝露(PE)療法を追加する治療(併用群)を比較した。併用群では9ヵ月目のCAPSスコアの低下が対照群よりも(有意に)大きかった(それ以前の時点では有意差なし)。(9ヵ月目に)PTSDの診断を有する割合は両群間で統計学的に同等であった(56%[併用群] 対 79%[対照群])。両群における物質依存症の割合は同程度に低下し(9ヵ月目:45% 対 56%)、物質使用中止率は同程度に低く(18% 対 27%)、不安・うつ症状のレベルも同等であった。
Monsonらは、やや重症(modestly severe)のPTSD(CAPSスコア 71点)を有する患者とそのパートナーからなるカップル40組を、カップル向けCBTを用いたPTSD治療群もしくは待機リスト群のいずれかに無作為に割り付けた。治療群における治療後(中央値16週後)CAPSスコアの低下は待機リスト群に比べ大きく(−35.4 対 −12.2点)、患者報告に基づく人間関係の満足度は4倍以上改善した。
コメント
これらの結果はあまり有望とはいえない内容である。非常に重症の物質乱用患者におけるPTSDの治療は物質乱用に対して標準的治療を上回る効果を示さず、PTSDに対する効果はPTSD無治療に比べわずかに高い程度である。カップル向けCBTはPTSDと人間関係機能を改善するが、この療法が個人向けPTSD治療と同等なのか、あるいはその人間関係の改善効果は、治療の狙いがPTSDまたは人間関係にかかわらず、個人治療で得られる効果よりも大きいのかどうかは、今回の結果からはわからない。関連する論説の著者も同様な見解を抱いており、PTSD治療が確立するまでの道のりは長く、とくに重症度が高く治療がより困難な患者に対しては前途遼遠である。