トキソプラズマ症と統合失調症の関連 Links Between Toxoplasmosis and Schizophrenia トキソプラズマ症を伴う統合失調症患者の疾病負担は大きいと思われるが、本研究が描く像はぼんやりしている。 トキソプラズマ(Toxoplasma gondii)感染が統合失調症の発症機序に関与または病態形成に影響するという推測が最近急速に広まっている。疫学、免疫学、神経病理学、神経生理学のアプローチを用いた種々の研究から、このネコ媒介性寄生虫が精神病エピソードの誘発に関与し、おそ

トキソプラズマ症と統合失調症の関連
Links Between Toxoplasmosis and Schizophrenia
トキソプラズマ症を伴う統合失調症患者の疾病負担は大きいと思われるが、本研究が描く像はぼんやりしている。
トキソプラズマ(Toxoplasma gondii)感染が統合失調症の発症機序に関与または病態形成に影響するという推測が最近急速に広まっている。疫学、免疫学、神経病理学、神経生理学のアプローチを用いた種々の研究から、このネコ媒介性寄生虫が精神病エピソードの誘発に関与し、おそらく臨床像に影響を与えることが示唆されている。Holubらがチェコにおいて統合失調症または統合失調症スペクトラム障害を有する入院患者251例(男性58%;平均年齢28歳)を対象に行った本研究は、原虫が休眠状態で無症状のトキソプラズマ症に注目した検討である。トキソプラズマ症は、原虫が組織内に形成したシスト内で生存し、生涯続く感染症と考えられており、免疫グロブリン(Ig)G抗体価から感染の有無が診断可能である。
非感染患者と比較し、トキソプラズマ陽性患者57例(23%)では最終入院時の入院期間が長く、Positive and Negative Symptom Scale(PANSS)で測定した陽性症状および興奮のスコアが高く、高用量または過剰用量の抗精神病薬を処方される割合が高かった。感染者の発症時年齢は(非感染患者に比べ)男性では1年早く、女性では3年遅かった。多重比較補正を行うと、男性感染者のみにおいてPANSSに基づく現実歪曲および陽性症状のスコアが高く、過剰用量の抗精神病薬を処方される割合が高かった。IgG抗体価は総PANSSスコアと負の相関を示した。
コメント
本研究の結果は興味深いがはっきりしない点も多く、多くの疑問が浮かび上がる。まず、(本集団における)トキソプラズマ感染者の割合は米国民一般集団の推定値に近く、したがって、統合失調症においてトキソプラズマ感染率が高いことは今回の結果からは明らかではない。著者らの仮説によると、IgG抗体価は初感染後の時間経過に伴い低下するため、IgG抗体価が低くて症状スコアが高い場合、感染持続期間に精神病症状が悪化したことを示唆している可能性が高いという。しかし、この推論が正しいかどうかは、さらに研究を重ねて検証する必要がある。本研究の解釈を複雑化させるもう1つの問題は、トキソプラズマ感染が他微生物の感染過程と同様に、感染性病原体の直接作用および免疫反応による間接作用の両方を介して脳に影響を及ぼす可能性があることである。さらに、一部の抗精神病薬および気分安定薬はトキソプラズマの成長を抑制し、同時に免疫反応を調節する可能性がある。トキソプラズマ症を伴う統合失調症患者の予後は不良であることが最終的に判明すれば、患者によってはトキソプラズマ症治療の追加が有用かもしれない。
—Joel Yager, MD
掲載:Journal Watch Psychiatry December 3, 2012