志賀直哉
『暗夜行路』あらすじ
時任謙作は父の子ではなく、母と祖父との過ちで生まれたが、謙作はそれを知らなかった。彼は、お栄という女性に炊事洗濯の面倒をしてもらっていた。彼女は、祖父の愛人で、祖父の死後、謙作と同居していた。謙作は、自意識が強く、自分の身体を気にしたり、感情に左右されることが多く、自分を受け入れてくれる兄、信行は好きであったが、自分の気にくわないないことがあるとすぐ友達に怒った。仕事(小説を書く)がうまくゆかなくなって、友人とあっても心は安らがず、娼婦のもとへ通う。そんな自分に、自己嫌悪におちることがよくあった。
謙作は尾道に転居したが、気分転換になったのは、最初のひと月だけで、仕事がすすまず、また、ひどい孤独感におそわれた。四国に旅してみたが、みやげもの屋の人々に自分がどう思われているのだろうかと、視線が気になった。謙作は、孤独に耐えられなくなって、お栄と結婚しようと思いたった。そのことを手紙で信行に伝えると、謙作の出生の秘密をあかされ、お栄との結婚をあきらめるよう言われた。謙作は、それに衝撃を受けて、また落ち込んだ。耳の病気になって、やむなく東京に戻った。
謙作は、ますます落ち込んで、人が自分に危害を加えはしないかと不安に襲われた。また、娼婦のもとへゆく。信行は、会社をやめて坐禅をやるようになった。たまたま京都に行った謙作は偶然、ある女性をみそめて、知人を介して求婚して、その女性、直子と結婚することができた。直子は謙作をそのまま受け入れて、謙作を尊敬してくれて、謙作は幸福を感じた。しかし、直子との間にできた子供はすぐ死んでしまって、自分が何かにのろわれているかのように感じた。謙作は信行から禅の話をよく聞かされた。お栄は、知人に誘われて満州に行ったが、だまされて、朝鮮に行き、金に困っていた。謙作がお栄を迎えに朝鮮に行った間に、直子のいとこが謙作の留守宅に来て、直子をおかしてしまった。朝鮮から戻った謙作は直子の様子がおかしいので、といつめると、直子のあやまちを知らされた。謙作は、また、まいりだした。謙作は不幸になりたくなかったので、理性では許そうとしたが、感情が許さなかった。謙作は荒れてきて、直子にもあたりちらした。直子は悲しんだ。
謙作は、転機を求めて、天台宗の道場として知られていた、鳥取の大山に行った。修行して、仏様になるつもりだと直子に言った。大山では蓮浄院という寺に十日ほど滞在した。そこで、自然のありようをながめたり、その地区の何組かの夫婦の有り様を見て、自分たち夫婦のことを考えるきっかけになった。ある日、大山の頂上をめざした。案内者とはぐれた時、自分が自然と一つになったような感じがして、自然の大きさと人間の小ささを感じた。寺に戻った謙作は病気になった。重態とみた寺の人が直子に連絡した。驚いた直子は、蓮浄院にやってきた。直子の顔を見て、謙作は眠り込んだ。小説は、次の文章で終わる。 「そして直子は、『助かるにしろ、助からぬにしろ、とにかく、自分はこの人を離れず、どこまでもこの人について行くのだ』というような事をしきりに思いつづけた。」