ストレスを目撃することと体験することは同じなのか?
Is Witnessing Stress the Same as Experiencing It?
動物実験の結果は明らかに同じであり、ストレス関連疾患に対する新しい治療への道を拓く可能性を示している。
心的外傷後ストレス障害(PTSD)の診断基準の1つは、他人が重大なストレスを受ける場面(another person's severe stress)を目撃することである。この基準に神経生物学的な根拠が存在するのかどうかを明らかにすることを目的に、本論文の著者Warrenらは、マウスに身体的ストレス(PS群:対象個体を大型で攻撃性が強いマウスと同じケージに入れる)または情動的ストレス(ES群:対象個体をPSセッションの隣接ケージに入れる)に1日1回(各セッション10分間)10日間曝露させた。
ストレス曝露24時間後、1ヵ月後の両時点において、PS群およびES群ではストレス非曝露(対照)群に比べコルチコステロン値が同様な上昇傾向を示した。曝露1日後、PS群では新奇マウスとの相互行動が減少した(すなわち、社会的回避を示した)(ES群でも軽度の減少がみられた)。曝露1ヵ月後、PS群およびES群では社会的回避が減弱し、同等なレベルになった。しかしながら、不透明なケージ仕切りを用いてストレス刺激を除去すると、ES群における社会的回避(の発現)が阻止された。両群の社会的回避は高用量(20 mg/kg)のフルオキセチンの1日の投与では抑制されなかったが、30日間投与すると抑制された。
高架式十字迷路試験および強制水泳試験(不安と抑うつの動物モデル)では、両群ともストレス曝露48時間後、1ヵ月後にレベルの上昇が認められた。ショ糖嗜好性(アンヘドニア[興味や喜びの減退]の動物モデル)はストレス曝露後早期のPS群、曝露1ヵ月後の両群において低下した。腹側被蓋野におけるシグナル伝達、細胞接着、樹状突起棘形成(spinogenesis)などに関与する661種類の遺伝子の発現に関して、PS群とES群の両群に共通する変化が認められた。
コメント
本研究では、動物が重大なストレスを与える出来事を目撃すると、同じ出来事を直接体験したときと同様な過剰ストレス反応が惹起され、社会的回避、不安、抑うつのマーカーが上昇した。これらの反応は気分とストレス反応の調節関連遺伝子の発現の変化と相関している(あるいは、もしかしたら遺伝子発現の変化を介した反応である)。ヒトでも同様な変化が起こるとしたら、このモデルを用いてさらに研究を進めていけば、ストレスを与える出来事を体験あるいは目撃した人々におけるPTSDおよび他のストレス関連疾患の予防に役立つ標的遺伝子を特定できるかもしれない。
—Steven Dubovsky, MD
掲載:Journal Watch Psychiatry January 18, 2013