"誤解とは、「たくさん食べるから太る」「脂っこいものを食べるから太る」「運動しないから太る」この3つである。
まさかこの3つの定説が間違っているとはにわかには信じ難いだろう。
赤道に近いミクロネシアやメラネシアなどの島々に生きる人たちは、現代の飽食の時代になるよりも前から太っている。
彼らは西洋文明に触れ生活が近代化するより前の、密林に囲まれた生活をしている頃から太っているのだ。
また、欧米諸国では、富裕層よりも貧困層になるほど太っている人が多いというデータもある。
好きなものを好きなだけ食べられる富裕層のよりも、その日の食べ物も確保できにくいスラムの人たちの方が太っているのだ。
また、「運動をすると痩せる」という説についても、活発に動く生活をしている人は、相対的に肥満の人が少ないという仮説に立脚しているが、医学的には「運動をすれば痩せる」という図式は証明されていない。
なぜなら、運動すればするほど、ヒトはたくさん食べてしまう性質を持っているからだ。
人間の肉体はとても複雑に出来ているため、「運動をすれば痩せる」「脂っこいものを食べると太る」というような、単純化された方程式では、僕らが太る理由(痩せる理由)は表すことができないのだ。
僕たちはダイエットをしたいと思う時、今では当たり前のようにこう考える。
「食事で摂取するカロリーよりも運動と基礎代謝で消費するカロリーを多くすれば痩せる」。
この方程式はいまではダイエットに興味ある人の間では「常識」のように扱われているが、残念ながらこの公式は正しくない。
どれだけたくさん食べるか、何キロカロリー食べるかが問題なのではないのだ。
人が痩せたり太ったりする直接的な基準となる値は、糖質の摂取量で決まる。
糖質が多く含まれる食べ物とは、炭水化物とでんぷん質の野菜、果物、それにお菓子やジュース類など人工的に作られた食物だ。
本書では、さまざまな実験データを引用して、人間が太るのは脂肪を摂取したときではなく、炭水化物を摂取したときであると説明している。
フライドチキンを食べると太るのは、チキンが油で揚げてあってこってりしているからではなく、チキンを揚げる際につけている衣が小麦粉、つまり炭水化物でできているからだ。
日本人に身近な例で言うと、カツカレーがダイエットに最悪なのは、トンカツの衣に小麦粉とパン粉が、カレールーに小麦粉が、カレーの具にジャガイモやニンジンといったでんぷん質の野菜が、そして白米という糖質の塊のような穀物が使われているからだ。
太平洋の島々の人たちが昔から太っているのは、彼らの主食がデンプン質のイモ類に依存していて、炭水化物への依存度がかなり高かったからだ。
貧困層の人たちほど太っているのは、それらの人たちがジャンクフードに近い、加工品ばかりを食べているからだ。
ファストフードの加工品は炭水化物由来の食品の比率が非常に高い。
その理由は、カロリー当たりの単価が圧倒的に安いからだ。
安価でカロリーを稼げるポテトやピザを食べ続けているため、彼らはどんどん太り、しかも栄養失調状態にあるのだ。
我々は肉を食べると太るのではない。脂肪がたっぷりついたサーロインステーキを思う存分食べても、炭水化物を摂取しなければ僕たちは太ることはない。
それは、炭水化物を摂取しないと、食物を即エネルギー化すると同時に脂肪に変えて体内に蓄積すべき糖質が存在しないため、食べた食事に含まれた脂肪分と、もともと体内にあった皮下脂肪や内臓脂肪をエネルギー源として利用するようになるからだ。
野生動物を見渡した時、太った肉食獣は存在しない。ライオン、豹、トラ、狼など、肉を常時食べる動物はしなやかで痩せている。
いっぽう草食の象、カバ、サイ、豚などの草食動物にはたっぷりとした脂肪が付いているモノが多い。
ちなみに太っている草食動物代表のカバの主食は、米、キビ、サトウキビなどの、炭水化物が多く含まれる植物のみである。
糖質制限は、ときどきやってもあまり効果が上がらない。続けることに意味があるのだ。
食事で体内に入ってくる糖質の量が少ない状態が二週間ほど続くと、身体の中に異変が起こる。
それまでは食事に含まれる炭水化物をエネルギー源にして、しかも余ったエネルギーを脂肪として身体に蓄えていた体質だった。
それが、食べ物に含まれる脂肪と、自らの体に蓄えている脂肪をエネルギー源にする体質に変化するのだ。
その変化を「ケト適応」と呼び、脂肪がエネルギーに変わる際に体内に作られる生成物が「ケトン体」と呼ばれる。
この変化が終わった状態を「ケトーシス」と呼び、この状態を維持することで、僕たちは脂肪を効率良くエネルギーに変えられる身体になるのだ。"