オランザピン服用患者の一部で認められる、体重増加を伴わない脂質異常症や糖尿病の原因について、オランザピンがインスリン分泌を制御する膵β細胞のアポトーシスを引き起こしている可能性があることを、京都大学大学院理学研究科教授・森 和俊氏らが明らかにした。Cell Structure and Function誌2013年第2号の掲載報告より。
統合失調症患者の症状軽減のためにさまざまな薬物投与が行われるが、いくつかの有効な第2世代(非定型)抗精神病薬、とくにオランザピンは一部の患者において、肥満や脂質異常、糖尿病を引き起こす。一般的にオランザピンは、肥満を誘発し、その後インスリン抵抗性が引き起こされることによって糖尿病発症に関与すると考えられているが、森氏らはインスリン分泌を制御する膵β細胞への直接的な薬物作用を、オランザピンほかリスペリドン、その他の非定型抗精神病薬についてハムスターを用いて調べた。また、その際に細胞への悪影響(ストレス)を生じさせる小胞体(ER)ストレスの喚起が認められるかについて、ERストレスセンサー分子PERKの低活性をエビデンスとして調べた。
得られた主な知見は以下のとおり。
・オランザピン治療細胞でのみ、アポトーシスの誘発が認められた。
・オランザピン治療細胞においては、PERK仲介翻訳減衰が選択的に損傷を受けており、そのためにERストレスの持続がみられた。
・インスリン分泌は顕著に阻害されていた。そして、プロインスリンとインスリンがいずれもオランザピン治療細胞に蓄積していた。
・蛋白質合成抑制とインスリンmRNAのノックダウンにより、それ以後はオランザピン誘発のアポトーシスは減弱した。
・以上から、オランザピンを服用する患者の一部で、体重増加することなく高脂血症と高血糖が臨床的に認められることについて、オランザピン治療による膵β細胞への損傷が好ましくない代謝の影響に関与している可能性が示唆された。