「出世して勝ってもなお、敵ばかりですね」 「実はね…」  男性は話し始める。  「今の僕もそうなんや。これ見てくれるか」と、神社のお守りを出した。  「家での様子を見てそれとなく察知した子供が、パパに、と、神社で願ってお守りをくれたんや。今はこれが心の癒しや」  出世するほどに「神よ」とすがりたい世界がそこにある。負けても悔しいが、勝っても辛い。  その管理職を、裏では笑いものにしている別の管理職を私は知っている。その男性もいじめる側の一人だろうと脳裏をよぎった。だが、自分をいじめている人物のこ

「出世して勝ってもなお、敵ばかりですね」
「実はね…」
 男性は話し始める。
 「今の僕もそうなんや。これ見てくれるか」と、神社のお守りを出した。
 「家での様子を見てそれとなく察知した子供が、パパに、と、神社で願ってお守りをくれたんや。今はこれが心の癒しや」
 出世するほどに「神よ」とすがりたい世界がそこにある。負けても悔しいが、勝っても辛い。
 その管理職を、裏では笑いものにしている別の管理職を私は知っている。その男性もいじめる側の一人だろうと脳裏をよぎった。だが、自分をいじめている人物のことを、管理職の男性はこう表現する。
 「“彼”の応援のおかげで、今の自分がある」
・・・うそだ。と、直観した。私の勝手な直観だが。
 両者を知る私への、保身の処世術として彼は私にそう表現したはずだ。その“彼”は今、社長になった。いじめられてお守りをポケットに入れる男性より、いじめる奴が出世した。
 不用意なひとことが自分を追い詰めることを熟知した男性の処世術は、脇をしっかり締め、悪口を言わない、ということのようだ。