オキシトシン点鼻薬は統合失調症の社会認知障害を改善させる Effects of single dose intranasal oxytocin on social cognition in schizophrenia Michael C. Davis, Junghee Lee, William P. Horan, Angelika D. Clarke, Mark R. McGee, Michael F. Green, Stephen R. Marder Schizophrenia Research

オキシトシン点鼻薬は統合失調症の社会認知障害を改善させる

Effects of single dose intranasal oxytocin on social cognition in schizophrenia

Michael C. Davis, Junghee Lee, William P. Horan, Angelika D. Clarke, Mark R. McGee, Michael F. Green, Stephen R. Marder
Schizophrenia Research

○序論
統合失調症では社会認知の障害が見られ、社会生活機能に寄与する。
オキシトシンについて、血漿中のオキシトシン濃度と精神症状が相関する、表情認知と相関するという報告がある。
オキシトシン点鼻薬の付加療法による治療は精神症状を改善させるという報告が3本ある。
オキシトシン点鼻薬の付加療法の表情認知に対する効果は、低容量では悪化、高容量で改善させるという報告がある(2本)。
オキシトシン点鼻薬の付加療法は14日間の投与で心の理論は良くなるが他の社会認知領域は変わらないという報告がある。
目的:オキシトシン点鼻薬の付加療法の社会認知障害への改善効果を複数の課題を用いて、低次処理と高次処理に分けて評価する。
オキシトシン点鼻薬の付加療法による効果を1週間の投与期間で、二重盲検デザインで検討した。
○方法
対象:統合失調症。男性患者23名。平均年齢48,6歳。PANSS合計で71から75くらい。精神症状が安定いる。過去6ヶ月は入院歴が無い。
薬剤:オキシトシン点鼻薬は50 IU/ml( Inland Compounding Pharmacy (Loma Linda, CA).)を用いた。
社会認知課題:①心の理論課題、②共感性、③社会知覚(Half-PONS課題)、④表情認知とした。うち、心の理論課題の嘘検出条件、社会知覚(Half-PONS課題)、表情認知課題の3つのコンポジットスコアを低次社会認知スコアとし、心の理論課題の皮肉検出条件、共感性課題のコンポジットスコアを高次社会認知スコアとした。
臨床評価:精神症状はPANSS、CGI-S、CGI-I、全般的機能はGAF
○結果
介入前について、プラセボ群とオキシトシン群では4つの社会認知課題のコンポジットスコア、および個々の検査いずれでも差が無かった。
介入後について、プラセボ群とオキシトシン群では4つの社会認知課題のコンポジットスコアに差が無かった(有意傾向はあった)。しかし、高次社会認知スコアでは、オキシトシン群が有意に上昇していた(p=0.045,効果量d=1.00)。
精神症状、全般的機能はプラセボとオキシトシン群の間で差が無かった。
○考察
・先行研究に一致するものとそうでないものがあった。本検討の患者群の年齢、オキシトシンの容量で説明できるだろう。
本検討の介入後の社会認知の検査(全1時間)は、オキシトシン点鼻の30分後に行ったが、現在のところ、人で脳脊髄液におけるオキシトシン濃度について計測した研究はないので、このような方法の妥当性は分からない。しかしバゾプレッシン点鼻は80分後に有意に上昇する、オキシトシン点鼻によって唾液濃度は7時間以上増大するという知見を踏まえると本研究の投与法は妥当であるといえるだろう。
・1週間投与した本研究では精神症状への影響が無かったが、先行研究は2週から8週間オキシトシンで治療していたからであろう。