桂枝湯変法の続きである。今度は桂枝湯の症状の頭痛に首や肩の凝りまで加わり症状が拡大してきた場合には、桂枝湯に頭痛・肩痛に効く葛根を加えて「桂枝加葛根湯」とする。さらに発汗せず身体がコチコチになってしまった場合は、発汗力を助け緊張を緩和するために桂枝加葛根湯に麻黄を加え、「葛根湯」として対応するのである。
ここでも処方名が大切なのは桂枝加葛根湯では桂枝が主役であるが、葛根湯では主役が葛根に変わる。名前が変わることによって処方の次元が変わっていることが分かる。桂枝加葛根湯では、寝汗をかいて虚証を呈している場合に用いるのに対し、葛根湯では、首・肩の強ばりは同じであっても無汗の場合に用いる。これは虚証から実証へと証が変化していることを意味する。
また、無汗でさらに節々が痛くなり、関節痛が悪化した場合には、主役を麻黄に変えるとともに処方構成の全体も変え、「麻黄湯」とするのである。これも処方名を変えることにより、葛根湯よりさらに実証の次元に変わったことを示している。
更に桂枝湯の方向を変えて、桂枝湯の桂枝を2倍にすると「桂枝加桂湯」になる。これは発汗ではなく精神的な安定をもたらすことを目的とした処方である。不安症や不眠症に効果を発揮する。今度は桂枝を2倍にするのではなく竜骨と牡蛎を加えると、不眠症の名方「桂枝加竜骨牡蛎湯」になる。本方は精神的な影響で血圧が上がるタイプの高血圧症に応用される。
ここまで来ると分かると思うが、もともとは桂枝湯という虚証の風邪薬からスタートしたものが、一つは実証の風邪薬へと変化し、また一つは虚証の便秘の薬から強壮薬へと変化し、さらには精神安定薬に変化して不眠症の薬になる。このような変化の体系をもつ処方構成理論は現代医薬の世界には存在していない。これが漢方の処方学の妙味というものである。
薬膳との併用で漢方薬をより効果的に
次いで漢方処方と薬膳の関係について述べる。現在の処方分量は『傷寒雑病論』の時代の処方分量より少なく、おおよそ6分の1から8分の1くらいと推定される。そのため葛根湯の作用も昔に比べ弱いので、現在のエキス剤の葛根湯で薬力が足りない場合、長ネギと生姜の薬膳を併用するとよい。長ネギ白茎1本と生姜拇指大を刻んだスープを作り、これにクズ(葛根)を加える。このスープで葛根湯を服用すると葛根湯の効果を高めることができる。胃腸が弱い人ならば少し生姜の量を増やすと良い。