俺のねーちゃん関西で国語の教師やってんだけど、先月新しい担任受け持ったんだ。4年生。
で、そこで「虎王人」って名前の男の子がいたんだと。仮に苗字は田中としとく。
流石に読めなくて、本人に聞いたんだ。
姉:ごめんなさい、田中君。下の名前を教えてくれる?
田中:…
姉:…?
田中:……れおと
姉:れおと君、ね。教えてくれてありがとう。
微妙な沈黙の後、聞き取るのがやっとな大きさでぼそっと教えてくれたって。
で、後日その母親が
「ウチの子供の名前が読めないのか!」「本人にわざわざ嫌みったらしく確認したのか!?」って。
子供に謝れってれおと君同席で校長室に乗りこんできた。
そりゃ読めないだろ…。校長も「いやまあ、大変個性的なお名前ですし…」
と当たり障りなく濁してたが姉がメモに「開闢」って書いて
姉:この言葉の読みと意味を御存じですか?
田中母:なんなのよ関係ないでしょ知らないわよそんなの!
姉:「かいびゃく」と読みます。物事の始まりを表します。ではこれは?
田中母:さっきから何なの!?
姉:「きょうじ」と読みます。プライドの事です。
姉:これら辞書に載ってる様な言葉でも、難読なものは沢山あります。
しかし載ってるから意味も読みも調べられます。
ですが人それぞれである名前において、一般的ではない仮名をふって、
読める読めないがありますか。
今はまだ良いですが、これから先、レオト君にとってこのやり取りは
恐らくずっと続く事になります。
お母様がどれだけ立派な意味を名前に託されたとしても、それが人に伝わらなければ
独り善がりに過ぎません。
私たち他人相手に限った話ではありませんよ、れおと君に対してもですよ。
こういった不便な思いをするのは彼本人です。
本当に彼の事を考えて名前を決められたのですか?
大まかにこんな感じの事を言ったんだ。母親が怒り狂って「あんたねええ!!」と
姉に組み付こうとした時、それまで俯いて黙ってたれおと君が、
「いい加減にしてよ!俺が昨日言ったのはこういう事させる為じゃねえんだよ!
先生だよ!?学校の、国語の先生でも俺の名前読めないんだよ!?
そんな名前で、俺が今までどんな思いしてきたか、お母さん今まで一度でも
聞いてくれた事あったかよ!?」
要は、姉が名前を尋ねた日の夜に、れおと君は母親にぽそっと「先生にも名前読まれなかった」
とこぼしたらしい。
本人は母親への皮肉と言うか反抗と言うか、名前に対する不満を表す意味で告げたらしいんだけど
当の母親は「息子が名前を読んで貰えず落ち込んでいる!許せん!」となったらしい。
で、正しい意図も伝えられず勢いに押し切られたらしい。
今までも相当押さえつけられてたんだろうなあ。
母親はそれ以上は流石に何も言えなかったらしい。
何で突っかかるような真似したの?と姉に聞いたら、
名前を尋ねた時の反応で何となく、コンプレックスの様なものを感じたらしい。
で、それまでの担任や関わった教師にそれとなく聞いてみたら、
本人は名前に苦痛を感じてるらしいと。
まだ10かそこらの子供にこんな辛い思いさせやがって!と親に対して憤懣やる方なかったんだと。
救われねえなあと思ったよ。”