“
エンターテイメントというものは、意外と不況の影響を受けます。不況下では暗い気分を晴らすために需要がある反面、安さと手軽さを求められる厳しい傾向があります。
映画のDVDが好まれるのも、購買者の心理を如実に表わしています。一部の廉価版は例外にしても、映画館で観るよりも高いDVDが何故売れるのでしょう。理由は簡単です。外出をしない分、お金がかからないからです。家族で映画を観るのであればなおさらです。
このような不況下のエンターテイメントについて、少し考えてみたいと思います。
■不況下では未知のものは好まれない(強い個性を拒む時代)
実はこれ、けっこう厄介な心理です。
心とお金に余裕がないので、滅多に目新しい物に手を出しません。購買者は無意識のうちに既存の物、ないし内容が予想できる物に手を出します。
ところが、自分で目新しい物、未知の物を避けておきながら、手に入れた物に目新しさを求めます。
既存の物を求め、そこに目新しさを求める。それが不況下における矛盾した厄介な心理です。
個性の強い新人にとっては、悪夢のような時代でしょう。
■不況下では権威や流行に弱い(一人勝ちを生みやすい土壌)
心とお金に余裕のない不況下では、未知のものに手を出す余裕もありません。そのため誰かが太鼓判を押したものに大勢の人たちが殺到するという現象が起こります。周りが買っている安心感から、自分にとって目新しい物、未知の物でも手を出しやすくなるからです。その結果、一握りの人たちが一人勝ちする現象が起こります。
CDの売り上げが良い例で、ミリオンセラーは不況の時に生まれやすくなります。逆に好景気の時には様々な作品に手を伸ばすため、一つの作品に殺到する圧力は弱くなります。
■心のゆとりのなさが要求水準を高める(エンターテイメントの心理的インフレーション)
もう一つ不況下で厄介なことは、受け手が値段以上の質を求めることです。
古本屋でただ同然で手に入れた本であっても、心に余裕のない不況下では満足できないと「時間やお金を無駄にされた」という怒りが込み上げてきやすくなります。
それどころか、最近では新刊でもほとんどの小説が安い文庫の形態で出されていますし、専門書でも一般向けの読本的な本だと新書やソフトカバーという形態で出されます。
このことはまさに出版評論家たちが口をそろえて言う「本の値段は30年間で3分の1になった」という話と一致します。これは本そのものが安くなったという意味ではなく、主力となる本の形態がハードカバーからソフトカバー、更に新書を経て文庫へと、徐々に安い作りになったことを意味します。
1年間に売れる本の冊数は少しずつ増えているのに、全体の売り上げが落ちている出版不況の問題もここにあるのでしょうか。
■ギブアンドテイクって何ですか?(エゴの先にあるものは?)
『応援してます。でも全部古本屋で集めました』
ファンレターの中で数は少ないものの、けっこう目に付くのが「図書館で借りました」とか「古本屋で買いました」というもの。これはあまり作家には言わないで欲しいことです。お小遣いが苦しいことは分かりますけど……。
中にはブッ○オフで100円になるまで粘ったなどと自慢してくる人がいると、この子は作家をバカにしてるのか、それとも恐ろしいほど社会に無知なのか、それとも社会性が欠如してるのかと疑問に感じてしまいます。
お気に入りの作家などのアーティストがいたとして、どうやればその人を応援できるか、どうすればその人の次回作を得られるのか。そういう部分を少しでも考えて欲しいものです。
欧米流の「応援するなら金を出せ」を強要する気はありませんけど、日本人にはギブアンドテイクを無視して自分だけ得しようとする人が多すぎるように感じます。
まあ、その前に「作家なら新刊で買わせるぐらいの作品を書け」という正論染みた意見を言われそうですけど……。
”