第31章 ディメンショナル・モデル
ポイント
・多くの研究者や臨床家はパーソナリティ障害の診断にはカテゴリー・モデルよりもディメンショナル・モデルが有効だと考えている。
・4つのパーソナリティ傾向は次のものである。
1.神経症傾向/消極的感情/感情不統制
2.外向性/積極的感情
3.非社会性/敵対心
4.抑制的/強迫的/良心的
・現在のDSMIV-TRからディメンショナル分類体系に移行しつつある。
・いくつかのパーソナリティ障害患者では、あるディメンションが高く、別のディメンションが低いことがある。
・ディメンショナルな見方で言えば、パーソナリティ障害の診断は、上にあげた傾向の幾つかが極端になったものであり、かつ、機能障害があるものである。
彼はそれはもう怖がりで、新しい体験のドアを開くなんて出来ません。
—–精神科病棟ナース
パーソナリティ障害を昔流にカテゴリー分類しても、臨床的な経過を予想する助けにはならないし、治療計画を立てる助けにもならない。研究者も臨床家も心配しているのだが、パーソナリティ障害と診断すると、否定的な感じがするし、医師、病院、保険会社から粗末に扱われる。また診断の信頼性、併存症、診断の一貫性のなさ、恣意的な障害境界線、などの問題がある。
キーポイント
多くの人が論じているようにパーソナリティ障害の科学的な基礎は不充分である。問題の良い解決のひとつは多分、さまざまなパーソナリティ傾向をスペクトラムとして捉えることだろう。
積極的感情・消極的感情、外向的・内向的、敵対的・従順、抑制的・衝動的、患者はどちらだろうか。こうして分類してゆくと18種類がディメンショナル・モデルとして提案される。Widigerらによって4つの傾向にまとめられて、これで臨床的には充分に有用なディメンションである。
多くの研究者がいまだに議論して、パーソナリティの違いを表現するためには何種類の要因が必要かという。多くの人が同意しているのは4つのディメンションで、不安ー服従、精神病質傾向、社会的引きこもり、強迫的、これらが、神経病質、不愉快な性質、内向/外向、精神病質、勤勉と同等である。
因子分析では、受動的、依存的、社会病質、強迫的、スキゾイドが抽出されている。
どのような分類体系でも、重症度を因子ごとに点数化する必要がある。
症例スケッチ
キャシーはそれは良くないサインだと知っていた。50歳でいまだに母親と暮らしていた。たくましく陽気な列車車掌で、たくさんの男性同僚に怪力と健康を自慢するのが好きだった。肉体と同じように精神の健康も自信が持てたらいいのにと願っていた。
20歳代に短い結婚期間があったが、キャシーは短期間の自由を経験し、一人で、自由な性交渉を持ち、クラックを使った。事態は悪化し、躁病になり、初めての入院は双極性障害と分類不能のパーソナリティ障害だった。その後は母親と暮らした。
表面的には二人の女性は非常にうまくやっているように見えていたが、キャシーの弟は真実を知っていた。今はもうそんなに訪れないが、当時は彼が訪問するたびに母と姉が喧嘩するところを目撃した。キャシーはいつも早く目を覚まし、勤勉に仕事に行き、夜遅く帰った。母親との関係が悪くない限りはそうしていた。当時は部屋に一人閉じこもり考え事をすることが多かった。社交は最低限だった。
49歳の時にうつ病で二度目の入院をして以降、毎週精神科医と約束して支持的精神療法を続けていた。彼女は気分安定薬Depakote(Divalproex)と抗うつ薬セレクサ(Citalopram)を使い始めた。
毎日仕事に行くのと同じように勤勉に面接を続けていたが、肉体的精神的虐待が明らかになるには長い時間が必要だった。彼女は子供時代から母親によって虐待されていた。彼女はこの事実を誰にも打ち明けなかった。更に悪いことに、精神科医が現在の生活状態について驚きを見せた時に彼女は恥ずかしいと思った。
「お母さんとはどんな風?」と医師は聞いた。
キャシーは椅子で苦痛に身悶えし、違うことを答えたいと言った。しかし彼女は面接では決して嘘はつかないと自分に約束していた。彼女は治りたかったし、真実が最終的には彼女を助けると信じていた。「母とはいつも喧嘩しています」と彼女は認めた。
「ひょっとしたら一人で暮らすか、誰か別の人と暮らしたほうがよくないかな?」
キャシーは涙を流して泣いた。もう何年も自分に同じことを問いかけていた。しかし何かがキャシーを母親のもとに留まらせた。母親は嫌味をいい、顔を平手で打ち、いらいらさせるような仕方で彼女を虐待していた。「家を出られるようにがんばってみます」キャシーは自分と医師に約束した。
精神科医と母親との関係を話しあう中で、キャシーが理解したのは、母親に大きな愛を感じているが、基本的には母親が嫌いだということだった。弟のつきあい方は回避であり、それは弟は父親の早い心臓死の原因が、母親がつまらない喧嘩を仕掛けて、サディスティックに振舞ったことにあると思っているからだった。
治療して2ヶ月して、キャシーは自分が精神科医に否定的な態度を取り始めていることに驚いていた。治療の最初の頃は大好きだったのに。精神科医が彼女に、こうした感情について話すように励ましたが、彼女は話せなかった。その代わりに、面接を欠席するようになり、薬も中断した。仕事には毎日行っていた。ある朝、キャシーはウキウキした気分だったが、それは敵意に急変した。母親が彼女を「怠け馬」だと責め、平手でひっぱたこうとしたからだった。突然キャシーは70歳の母親の顔面にパンチを浴びせ、家から走り去った。のちになって列車で車掌をしているところを警官が見つけ、三度目の入院になった。
ディスカッション
双極Ⅰ型に加えてキャシーは分類不能のパーソナリティ障害を持っていた。この診断はスティグマ(悪い刻印)を減らすように精神科医によって注意深く選ばれたものだ。境界性、受動攻撃性、依存性、自己敗北型、などと診断した場合にはスティグマが大きくなるだろう。これらの診断はみな大いに否定的な意味を持っており、分類不能のパーソナリティ障害ならば、よく知られていないし、たとえば境界性のようには嫌われないだろう。
ディメンショナル分類体系では、キャシーは次のようになる。感情不統制・高い、外向性・低い(躁病のときは別)、敵意
・高い、抑制・低い、勤勉・高い。こうした評価はスティグマにはならない。また医師は将来彼女がどのようになるか予測できるし、よりよい治療計画を立てることができる。もちろん、双極Ⅰ型については最適治療しなければならない。
・高い、抑制・低い、勤勉・高い。こうした評価はスティグマにはならない。また医師は将来彼女がどのようになるか予測できるし、よりよい治療計画を立てることができる。もちろん、双極Ⅰ型については最適治療しなければならない。