第11章 特定不能のパーソナリティ障害(PDNOS)

第11章 特定不能のパーソナリティ障害(PDNOS)
ポイント
・特定不能のパーソナリティ障害(Personality Disorder Not Otherwise Specified:PDNOS)は、どの分類にもぴったりしないものである。
・PDNOS患者は、パーソナリティ障害の全般的診断基準を満たす。
 
DSM-IV-TRの人格障害(パーソナリティ障害)の全般的診断基準は以下の6項目からなる。
  1. その人の属する文化から期待されるものより著しく偏った、内的体験および行動の持続的様式。この様式は以下の領域の2つ(またはそれ以上)の領域に現れる。
    • 認知(すなわち、自己、他者、および出来事を知覚し解釈する仕方)
    • 感情(すなわち、情動反応の範囲、強さ、不安定性、および適切さ)
    • 対人関係機能
    • 衝動の制御
  2. その持続的様式は柔軟性がなく、個人的および社会的状況の幅広い範囲に広がっている。
  3. その持続的様式が、臨床的に著しい苦痛、または社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。
  4. その様式は安定し、長期間続いており、その始まりは少なくとも青年期または成人期早期にまでさかのぼることができる。
  5. その持続的様式は、他の精神疾患の表れ、またはその結果ではうまく説明されない。
  6. その持続的様式は、物質(例:乱用薬物、投薬)または一般身体疾患(例:頭部外傷)の直接的な生理学的作用によるものではない。
・現状では、受動攻撃性パーソナリティ障害と抑うつ性パーソナリティ障害はPDNOSである。
・PDNOS患者は何種類ものパーソナリティ障害の混合となっていることもある。
特定不能のパーソナリティ障害(PDNOS)は過去には「混合パーソナリティ」と呼ばれた。社会性機能と職業機能が障害されている。
受動攻撃性パーソナリティ障害、自己敗北型パーソナリティ障害そして抑うつ性パーソナリティ障害は特定不能のパーソナリティ障害に分類されている。
患者がどれにも分類できないパーソナリティ傾向や行動を呈するときはPDNOSが使われる。
キーポイント
もし患者が境界性、演技性、自己愛性の特徴を持ち、どれも目立つ要素であるなら、PDNOSと分類する。
医師は、容易にどの分類にも当てはめられない患者を診察することがよくある。残念ながら、現実生活はいつも我々の分類体系に合わせてくれるとは限らない。
DSM5が出版されれば分類に変更はあるかもしれないが、PDNOSは常に残るだろう。
症例スケッチ
幼い子供の頃からアンは寝室に一人で座り、考え込んでいることがよくあった。自分は無価値だと思い落胆して死ぬことを考えた。家族はなぜ彼女が悩んでいるのかよく分からなかった。しかし下に来て一緒に遊ぼうとか食事しようとか言わないほうがいいことは分かっていた。もし考えを妨げれば、叫んだり癇癪を起こしたりした。ブロンドの髪を編んで目は碧く、彼女は親しみやすくて可愛いかったのでなおさら、家族はいつも彼女の敵意の激しさに驚いた。
アンの落胆と憂うつは思春期から青年期にかけても続き気分の基調になった。高校時代には「ゴート族」と一緒にうろつきまわり、ダウン系ドラッグをみんなでやったりした。アンと友人は黒の服を着て赤いマニキュア、顔は死人のように白く塗った。17の時までにアンは3回飲酒運転でつかまっていた。学校精神科医からセレクサ(シタロプラム)と抗うつ薬を投与されていた。しかしそれは助けにならなかった。大学では学業は抜きん出ていたが「ダークサイド」に引きこまれていた。ボーイフレンドが鎮痛剤乱用を教えた。1日に1ダース使うはめになった。ハイなときには自分の不幸を考えないですんだ。テレビの前で「スペース・アウト」したりしていた。アンはいつも「こころが空っぽ」と感じるとこぼしていた。ある夜彼女はVicodin(麻薬含有の鎮痛剤)を過量服用して救急搬送されて精神科病棟に入院した。
ディスカッション
アンは抑うつ性パーソナリティ障害と分類することができる。彼女のいつもの気分は落胆、憂うつ、面白くないものだ。彼女は自分が不適切で無価値だと思っていて、悲観的でもあり自分自身に批判的であった。彼女はまた境界性パーソナリティ障害の特長を持っていて、空虚さ、物質乱用、イライラがあった。加えて彼女は自己愛的だった。
アンのような患者はPDNOSとして記述されるのが最適だろう。抑うつ性パーソナリティ障害は診断基準セットで今後の研究が必要である。彼女の薬物乱用と自殺企図に対するベストプランは入院と12ステップ・プログラムだろう。
キーポイント
医師は薬物乱用問題は治療できるが、PDNOSを改善できると期待しないほうがいい。
アンのタイプの患者は入院してAA(アルコーリックス・アノニマス)かNA(ナルコティックス・アノニマス)で経過を見るのがよい。しかし医師は彼女の気分を改善できると思わないほうがいいし、自分についての考えを変えたり、自己評価を高めたりすることはできないと思ったほうがいい。パーソナリティ障害はその本質からして治療不可能で悪名高いのだ。
 
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ICD-10だと次のようだ 

特定の人格障害(パーソナリティ障害)の診断ガイドライン(F60)【ICD-10:国際疾病分類】
特定のパーソナリティ障害は、通常、パーソナリティのいくつかの領域を含む、性格構造と行動傾向の重度の障害であり、ほとんど常に個人的あるいは社会的にかなりの崩壊を伴っている。パーソナリティ障害は小児期後期あるいは青年期に現れる傾向があり、成人期に入って明らかとなり持続する。それゆえ、パーソナリティ障害が16歳ないし17歳以前に適切に診断されるということは疑わしい。すべてのパーソナリティ障害に適用される全般的な診断ガイドラインを以下にあげ、補助的な記述はおのおのの亜型で示すことにする。
診断ガイドライン
粗大な大脳の損傷や疾病、あるいは他の精神科的障害に直接起因しない状態で、以下の基準を満たす。
きわめて調和を欠いた態度と行動を示し、通常いくつかの機能領域、たとえば感情、興奮、衝動統制、知覚と思考の様式、および他人との関係の仕方などにわたる。
異常行動パターンは持続し,長く存続するもので,精神疾患のエピソード中だけに限って起こるものではない。
異常行動パターンは広汎にわたり、個人的および社会的状況の広い範囲で適応不全が明らか
である。
上記の症状発現は,常に小児期あるいは青年期に始まり,成人期に入っても持続する。
この障害は個人的な相当な苦痛を引き起こすが、それが明らかになるのはかなり経過した後からのこともある。
この障害は通常、しかしいつもではないが、職業的および社会的遂行能力の重大な障害を伴っている。
社会的な規範、規則および義務を考慮した上で、異なった文化に適合する特異的な診断基準をつくり出すことが必要であろう。以下にあげる主な亜型を診断するためには、記述されている特徴あるいは行動のうち少なくとも3つが存在するという明らかな証拠が必要である。 
 
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自虐的→自己敗北型→抑うつ性パーソナリティ障害 などと、名前を変え、視点を変えて、という例もあるようだ。
ヒステリー性→演技性という言い換えなど。