高齢者が年齢を重ねても、かつてのように活動度は下がらなくなりました。内臓疾患の診療を中心に医療水準が上がっているのが大きいのです。10年、20年前ならば、内臓疾患が原因で活動が強く制限されていたような人は、行動しない分だけ腰痛の重みは今よりも低かったと思います。医学の進歩で生命を維持するための臓器の管理が良くなり長生きとなり、歳を取っても積極的に行動するようになって、生命維持に関係ない臓器の使用が多くなり脊椎をはじめとして腰痛が起きる体の部位への負担が増しています。
いわばエンジンの故障が起きにくくなり昔の車より長く走れるのですが、使っているうちにまず足回りにガタが来る最近の車事情と似ているのです。結果として、こういった臓器での手術件数が増えているのです。
また、基礎疾患を持った高齢の患者を診る必要も増えているわけです。例えば、パーキンソン病患者の腰痛ですね。薬剤治療が効果を示すようになり、昔よりも患者が歩き続けていられるようになった。その結果、今まで見たことなかったような頑固な腰痛がパーキンソン病の患者で現れてきて問題になっています。
ほかにも、骨粗鬆症の傾向がある患者は増えています。骨強度が低いので、若年の患者と病気も手術法も同じなのに、同じように手術するのは難しいケースもあります。基礎疾患を持った腰痛患者の診療はかつてとは異なる新しい対応が必要になります。
脊髄が脊椎の中で圧迫される「脊柱管狭窄症」は前からよく知られていました。今の大きな変化は、脊髄から左右に伸びる腰椎椎間孔内外の病変が分かるようになっている点です。神経が椎骨の骨棘で圧迫されたり、従来は無害とされてきていた第5腰椎の肋骨突起と骨盤との間の圧迫で痛みを起こしていたりする例が見付かっていることです。立体画像を見られるようになり、これらの狭窄が確かに腰痛を引き起こしていると判別できるようになりました。今では、従来考えられなかったほどに、画像診断で腰痛の原因を特定できるようになっています。