“ある村に伝説があった。ある年、ある日、ある時間にこのような風貌の旅の男が村の橋を通るであろう、というのである。村人たちは、その日を心待ちにしていた。その日、その時間がやってくると、伝説通りの格好をした旅の男がやってきた。村人たちは「お待ちしていました、あなたこそ観音です。どうぞこの村を救ってください」と言う。実はその旅の男は、観音でもなんでもなくて、本当にただの旅人だったのだが、「あなたたちがそんなに言うわれるなら、わたしは、きっとそうなのでしょう」と言って、旅をやめ、その村に残り、その村のために尽くし

“ある村に伝説があった。ある年、ある日、ある時間にこのような風貌の旅の男が村の橋を通るであろう、というのである。村人たちは、その日を心待ちにしていた。その日、その時間がやってくると、伝説通りの格好をした旅の男がやってきた。村人たちは「お待ちしていました、あなたこそ観音です。どうぞこの村を救ってください」と言う。実はその旅の男は、観音でもなんでもなくて、本当にただの旅人だったのだが、「あなたたちがそんなに言うわれるなら、わたしは、きっとそうなのでしょう」と言って、旅をやめ、その村に残り、その村のために尽くした、その男の働きは、村にとってとても役に立った、という。その男はもちろん、もともと観音であったわけではない。しかし役割を受け入れることにより、観音ならずとも有為な人間として、生を終えたのである。
役割を受け入れる、とはそのようなものだと思う。自分にはとうていそのような力はないと思っても、期待されることによって、役割を全うできる人間になっていく。”